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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

02 第二分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 190,406 字 · 381 页

青空文庫

「飲むのはよいが、おぬしには、明日から三日のうちに誓約があるぞ。よいか」

「よいとも。よいとも。明日はあしたの風というもの」

「お覚悟あるなら、腰すえて飲もう」

多くは飲まないが、話が尽きないのである。犬千代は談論風発であったから、藤吉郎のほうがどうしても聞き手になった。藤吉郎はまた誰とはなす時でも、聞き上手であった。

藤吉郎は、一定の学問をしていない。武家の子弟のように、学問や教養だけで過せばよい日などは、過去に一日もなかったのである。それを不幸とは少しも考えなかったが、世に立つ短所であることはよく弁えていたので、自分より教養のあるものと思えば、その者の知識を、座談のあいだにも、自分の物にしようと努めて心がけていた。――自然、人のはなしを忠実に聞き、また聞き上手な態度になるのだった。

「やあ、よい心地になった。木下、もう寝ろ、もう寝ろ。――明日は早かろう、しっかり頼むぞ」

犬千代は、やがて自分から杯をひかえ、そういうとすぐ帰ってしまった。

犬千代が帰ると、藤吉郎はすぐ横になり、手枕で眠ってしまった。

下婢が来て、枕をあてがったのも、知らないふうであった。