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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
これくらいな図太さと沈着がなければ勤まるものではない――と、教えているような態度である。
「御挨拶だな」
と、三平も至って洒然としたものであった。自国の中に敵国の密偵を見出したからといって、にわかに物々しく立ち騒ぐなどは、平常、注意のない常人のことで、泥棒の眼でみれば、世間に昼間も泥棒はあるいているので、あながち驚異するにもあたらないことだった。
「おとといの晩、恵林寺へ泊って、きのう同所で、快川和尚とお館の密談を盗み聞きして、寺僧に見つけられ、それから一目散にお立ち退きだったな。……そうだろう天蔵」
「そのとおり。貴公もあそこへ来ておったのか」
「生憎とな」
「知らなかった。それだけは」
「おぬしに取っては不運だ」
「そうかしらて」――と、天蔵は、ひと事のように空うそぶいて、
「武田の間諜、甘糟三平は、まだ伊勢境か岐阜あたりで、織田家の虚を嗅ぎあるいていると思っていたが……いつのまに帰国したか。さすがは三平、お迅いことだ、賞めておこう」
「むだな追従、いくら賞めても、おれの眼にとまったからには、生かして帰すわけにはゆかん。――この国境を生きてもどる気か」
「まだ自分には死ぬ気など少しもない。