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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
去りゆく人々
つづいて、信長方から、京都奉行の村井民部が来、夕方ちかくなって、公式に信長の使者として、織田大隅守信広が見えた。
十七ヵ条の諫書に対して、
「以後は、条々、慎んで守るであろう」
義昭は、本心にはないことばを、信長の使者へほろ苦い顔して誓った。やむなくその日、和を乞うたのである。
信長の兵は、退くもまた静かに、岐阜へ帰って行った。
けれど、それからわずか百日とたたないまに、改めて、その軍はまた、二条をかこんだ。――もちろん理由がある。四月の和談以後も、義昭のやり口は、ひとつとして反省されていなかったのである。
去りゆく人々
二条妙覚寺の大屋根は、初秋七月の長雨に、蕭条と打ちたたかれていた。
信長の本営である。
こんどの出陣には、琵琶湖を例の大船で渡って来るときから、ひどい雨と風だった。
将士の戦意はそれがためむしろ荘重を加えている。雨と泥にまみれた軍隊が、足利家の第を厚ぼったく取り巻いて、
「いつでも」
と、命令一下を待機している形だった。
首にするも、捕虜にするも、将軍義昭の運命は、完全にもう味方にある。信長の将士は、やがて屠殺にかかる高貴な猛獣を、しばし檻の外から見ている感じだった。