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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

珠

……まあ、こちらへおいで下さい。ゆるゆるはおもてなしもできんが、茶なと一ぷくあげましょう」

三河守は、さきに立って、彼を庭園の茶室のほうへみちびいた。――その白髪の将のうしろ姿には、さすがにもう生死を超脱しているなと、うなずけるだけの落着きが見えた。

珠

一棟の数寄屋がある。

木の間の路地を導かれて、そこの一室にすわると、ここにはまったくべつな天地がある。清楚な自然と、幽寂な茶室の規矩にかこまれて、主客共に、血なまぐさいたましいから、しばし洗われていた。

折ふし秋の末。

そこらの木々の葉は、数寄屋のうちまで舞ってくるが、炉のあたりにも、床にも、塵ひとつなかった。

「織田どのの御家中でも、近ごろはみな、茶に御熱心と伺っておるが……」

などと和やかに雑談しながら、藤掛三河守は、釜に対して、柄杓を把っていた。

藤吉郎は、彼の作法を見て、あわてて断っておいた。

「主君信長はじめ、みなお嗜みは深いが、それがしのみは、生来の無骨者、何も弁えません。……ただ飲むは好きというだけのことで」

「結構じゃ」

三河守は、茶わんを置き茶せんをそそぎ、女性のような細心な点前を静かにつづけている。