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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

卍

卍

雪となって来た。――陽が沈みきるのを待っていたように。

雪かぜは霏々と、敗軍の旗を兵馬を吹きまくして、一層、拠るところを失わせた。

「殿は。殿はいずこに」

「御本陣はどこへ」

「おれの隊は?」

路頭に迷った逃げ足のかたまりへ向って、甲軍の銃隊は、けむる雪の中から、鉄砲を撃ちあびせた。

「おひき揚げだ」

「退軍の貝が鳴っている」

「さては、もはや御本陣をひき払われたか」

敗軍の鯨波は、まっ黒に北へなだれ、西へまよい、その間にもなお多くの死傷者を出しながら、やがて南のほうへ一路潰走しはじめた。

さきに、鳥居忠広と一緒に、危地を脱して行った家康は、うしろに続く、人々を顧みて、

「旗を立てい」

と、急に駒をとめ、

「――旗をたてて、味方の者どもを、ひとつに呼びあつめろ」

と、命じた。

夜の闇はせまり、雪はふり増してくるばかりである。家康をまん中にして、旗本たちは貝をならし、馬じるしを振りまわしては叫んでいた。

「おうういッ」

「オオーイ」

追々と、敗軍の士卒は、そこへ集まってきた。どれもこれも血にそんでない姿はない。

だが忽ち。

敵の中軍がそこにあると知った甲州の馬場美濃、小幡上総の二隊が、一面から弓、一面から鉄砲を撃ち放ちながら詰めてきた。