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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

だが、信長よりは、もっとそちの行動にくわしいものがいる。たれか知っておるか」

「そのような諜者がそれがしを尾けておりましょうか」

「そちの家内じゃ」

「お戯れを。……ちときょうは御微酔の御容子で」

「酔うてはおるが、申すことにまちがいはあるまい。そちの妻は、洲股に住居しておろうが、遠いと思うと、甚だ相違であるぞ」

「いや、どうも、悪い折に伺いましたな。……どうぞもうおゆるしを」

「はははは、遊びはとがめん。ひそかに、たまたまの桜狩など、大いによかろう。……しかし長浜で落ち合うてやるほどなら、なぜ、寧子を呼んで会ってやらぬか」

「はい」

「もうだいぶ夫婦の対面もしておるまい」

「なにか……愚妻から、殿へつまらぬ書状でも、さしあげて参ったのではございませぬか」

「案じるな、そういうことはないが、信長の思いやりである。――そちのみならず、誰の妻も彼の家内も、戦陣となれば、長い留守となるものを、せっかく少しでも暇を得たら、せめて無事な顔ぐらいは、たれより先に妻に見せてやるべきが……」

「御意ですが、ちと」

「異存があるか」

「ございまする。――ここ数ヵ月は、四辺も無事でございますが、それがし自身の気もちは、まだ寸毫も、戦陣から解かれてはおりません」