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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
追ッつけ、もすこし具体的に、事実をさぐって帰り着こうとぞんじますが」
「諸国にはまだ聞えわたらぬふうか」
「なんの気ぶりも見えません。おそらく甲府一門としては、かりに信玄亡きあとも、しばらくは厳秘に附して、なお信玄健在なりとしておるでしょう。――ですからもし甲州領において、何かわざとらしき積極政策や、信玄の名を謳うような兆あれば、まず十中の八、九まで、信玄の死は事実か、かろくとも重態と見てよろしいでしょう」
「ム、ウム……」
信長は二度もうなずいた。強いてでも肯定したいかのように。
ふと彼は、冷たい杯を手にして、人生五十年、化転のうちを……思いうかべていた。
しかし、舞いたい気もちは、わき上がらない。
自己の死を観るよりも、彼はひとの死を観るほうが大きく心をうごかされた。そして複雑になった。
「そちの放った天蔵は、いつ頃もどるか」
「三日のまに帰りましょう」
「横山城へか」
「いや、ここへと、申しふくませておきました」
「では、それまで、そちもこれに逗留しておるがいい」
「そのつもりでございまするが……願わくば、旅舎は御城下にとって、お召しを待ちたいとぞんじますが」