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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

「……はい。お見しりおきくださいませ。兄重治へも、お眼かけていただきました。妹のゆうと申しまする」

かすかな声ほど美しい。

信長は、ながめ入って、感心していた。

その意味を、藤吉郎にすこし揶揄してやりたいような気もちがうごいたが、罪な気がして、

「半兵衛は、その後、健在かの」

と、まじめになる。

「久しく、兄とは会いませぬ。戦陣のせわしさに……便りのみは折々にございますが」

「今、そなたは、どこに身を置いておるか」

「すこしばかり所縁の者がおりますので、不破の長亭軒のお城に身をよせております」

「そうか、なるほど、あれには樋口三郎兵衛が今もおったな」

なるほど――と、いって、特に藤吉郎の顔を見る。彼のその方の才を称揚している微笑だった。

藤吉郎は、すこしてれて、

「時にまだ、渡辺天蔵は、もどりませぬかな」

わざと、とんちんかんをいう。これが曲者である。信長はその手はくわない。

「なにをいう、うろたえて。天蔵の帰りは、三日目ぐらいと、昨夜、自分でいうたばかりでないか」

「なにさま」

藤吉郎の面がひどく赤くなる。信長は、これで気がすんだらしい。――彼が羞恥んで困るのをさっきから見たかったのである。