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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

「ゆう。遊んでゆけ、ゆるりと……」

女性には当りのいい信長である。藤吉郎はうれしくもあり、時々気ももめる。終日、いろいろに、春を暮らした。

夜に入ると、

「わしの小舞を見たことはなかろう。藤吉郎はたびたびじゃが」

と、夜の酒もりにも彼女を交じえた。そこには、奥の侍女、家族の老若、重臣たちも共になる。いかにも、春の夜らしい人々であった。

「……泊ってゆくがよい」

と、いわれたが、ゆうはお暇をねがった。

信長は、強いもせず、

「では、藤吉郎も帰れ」

と、彼にはにべなくいった。

人々に、囃されながら、ふたりはお城を辞した。けれど、間もなく藤吉郎ひとり、あわただしく帰って来て、

「殿は」

と、もとの酒席のおつぎへ来て、小姓にたずねた。

「ただいま、御寝所のほうへ、おひきとりになられたばかりでございます」

聞くと、藤吉郎は、いつになく忙しげに、またそこへ行って、侍臣に取次を仰いだ。

「どうしても、こよいのうちに、まいちどお目通りをねがいたい儀がございまして――」と。

旧閣瓦解

寝所にはいったが、信長はまだ衾に就いていなかった。

藤吉郎は、人ばらいを乞い、宿直が遠く退っても、なお注意ぶかく見まわしていた。