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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

「あれが八相山、宮部ノ郷、小谷から横山まで三里のあいだを、鹿垣、柵をもって遮断すれば、敵の出ずる道はもう一方しかありません」

藤吉郎はつぶさに説明する。さながら自分の庭園の設計を説くようにである。

幅三間の軍用道路が横山まで通った。城へ迫って五十余町のあいだ高い牆壁を作ってしまった。そして渓流の水をせき入れて、道路の安全をはかる一方――持久戦の腰を示した。もろもろの防寨などもすべて、半永久的に築いたのである。

こうしたら敵も決戦に出てくるに相違ない。

と、計ったのである。

だが、智者のはかりも外れることがある。自己の廉恥と気もちでひとを考えた時である。浅井父子は、いよいよ朝倉の外援をたのむのみで、自身から討って出ることはしなかった。

しかし信長は、それ一策を恃んではいなかった。兵家にはかならず変通がある。かれは、俄然、鉾を転じて、木ノ本を衝いた。――越前軍へ急襲したのである。

八月十三日、その日、織田軍の手にあげた首級だけでも、二千八百余級。

十四日、十五日も、逃げくずれる敵を追って、梁ヶ瀬から田神、田部、引田などという部落部落を、残暑に乾ききっている夏草の野を、血しおで黒くするほど駈け捲くした。