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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

武者坐りのまま、藤吉郎は無造作にひきよせて、がぶがぶと、三口ほどに飲みほし、

「ああ、うまい。……きょうほど茶をうまいと思ったことはござらん。お世辞でなく」

「如何ですか。もう一ぷく」

「いや、渇は医えました。口中の渇は。……しかし心中の渇はどうしたら医えましょうな。三河どの、あなたは話せそうだ。ひとつ、それがしの相談あいてになってはくれまいか」

「この方は浅井家の臣、其許は織田方の使者。明らかな立場のうえで承ろう」

「長政どのに会わせてもらいたい。いかがであろう」

「その儀は、城門でお断りいたしてある筈。其許もまた、長政どのに会いに参ったのではないと仰せあったゆえ、お通し申したのじゃ。ここへ来ておことばを違えるなど、使者として醜しい弄策。かまえてお会わせいたすことはできぬ」

「いや、生ける長政どのに会おうとはいわん。長政どのの霊に、信長の代参として、一片の礼拝を遂げもうしたい」

「詭弁はやめられい。たとえお取次いたしたところで、長政様が会おうと仰っしゃる筈はない。この際、一ぱいの茶は、この方として最高な武門の礼を執ったつもりじゃ。恥を知るなら其許きれいにここからお帰りなさい」