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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

04 第四分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页

青空文庫

その味方へは、昼のうち、城内から小旗をあげて、

(御救出のこと、成就せん)

と、あいずはしてあるが、それにしても、時間は経ちすぎる。

信長をはじめ諸将が、事の結果を、城外から知るよしもなく、さまざまに思いまどって、帷幕の異論や、行動に迷って、紛々たる声にとりまかれて困惑している主君の顔が――藤吉郎には、こうしている間も眼に見える気がするくらいだった。

「……いや、御無理もない。亥の刻まで、お待ち申そうほどに、ごゆるりと、お名残をつくされたがよい。それまでは、城内の御安穏は、藤吉郎がひきうけておりますれば」

彼の快い承諾になぐさめられて、藤掛三河守は、ふたたび奥へもどって行った。その頃もう宵の色は深かった。

小侍と茶道衆が、こもごも、彼のまえに来ては退って行った。戦場では見られない膳部や酒が饗された。

「お身方もせわしかろう。独りのほうが勝手でござれば、銚子、飯櫃なども、ここへおいてお退りください」

給仕の者を退けて、彼はひとりで酌みはじめた。薄口な塗りの杯から全身に、秋の沁み入る気がした。

「…………」

酔い得ない酒だった。寒々と、ほろ苦くばかりある。