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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
また疑うのあまり、ひしひしと、城塁へ迫って、口合戦をし始めていたりした。およそ夕刻頃には、すでに一触即発の危機は醸されていたのである。
――これまで。
と、信長も思いきった。
そしてついに、総がかりの令を、発したのであった。
だが、そう決したのちも、藤吉郎を犠牲にしたかと考えると、痛恨にたえなかった。
その痛恨は、併せて、お市の方のうえにかかった。――あれほど、出城の機会を与えてやったのにと、彼女の貞節を、彼の肉親的な感情では、どうしても称えることができなかった。
ところへ、黒おどしの具足をつけた一名の若者が、ひっ抱えている槍の穂さきが、ほとんど、信長の身に触れるくらい、向う見ずに駈けて来て、
「あッ。殿ッ」
と、急に立ちどまって、息を喘いだ。
「下におれッ」
「槍をうしろへ置かんかッ」
信長の周囲から睨めつけられて、若者は、べたッと大地に坐った。
「ただ今、主人藤吉郎が、ここへ参りまする。おつつがなく、城中を出られて……」
「なに藤吉郎が、もどって参ったと」
「はッ。はいッ」
「ひとりでか」
信長の訊ねようは急だった。
若者は、はじめて気がついたように、自分の口不足を、あわてて云い足した。