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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
あわてるな」
「じゃあ、寝ていたらいかがですか。殿さまはもうお起きになって、きちんとしていらっしゃるんだから」
「ほんとか」
いやおうなく、市松も衣服を着けて、
「どうして、今朝はこんなに、お早いんだろう。見ろ、まだ有明けの月さえあるに」
「だってきょうは、洲股から御母堂さまや夫人がた様がお着きになる日だろ」
「それにしたって、長浜へお着きは、午ごろというご予定ではないか」
「ご予定はそうでも、きっと、お心のうちで、待ち遠しくて、お寝みになれなかったにちがいない」
「そんなことがあるものか。どんな戦場の中でも、御大将が寝なかったことなどありはしない」
「それとこれとは、はなしが違うよ。於市どのなどは、親不孝だから、殿のお気もちなどは、分りっこない」
「こいつめ、また朝から生意気な」
睨みつけたが、この頃では、於虎にたいして、その睨みもあまり効きめがない。
秀吉は、風呂が好きだ。一面、無精で身のまわりをかまわないくせに、湯にはいることは好きである。
何かにつけ、一風呂浴びようという。戦場へ出ても、長陣の時などは、野原に坑を掘らせて、坑のなかに桐油紙をしきつめ、それへ湯をいっぱい汲みこんで、浸ったりした。