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しんしょたいこうき
新書太閤記
吉川 英治
04 第四分冊
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 187,841 字 · 376 页
瑜伽三密の霊場叡山を敵として、今、自己の全武力をあげて包囲にかかりながら、一塊の土には、掌を合わせて哭く信長であった。
「…………」
ふと、側を見ると、自分と同じように合掌して泣いている小姓がある。――父、森三左衛門可成をここに亡った蘭丸であった。
「蘭丸」
「はい」
「泣いておるのか」
「ごめんくだされまし」
「今だけはゆるす。もう泣くなよ。そちの亡父が笑うぞ」
――が、信長の眼こそ熱くなりかけていた。彼は、床几を移させて、包囲陣の配置を、高い所から一望した。
叡山の麓は、見わたす限り、味方の兵馬と旗だった。
叡山の峰々は、雲のかからぬ所、雲のかかっている所、すべて敵軍だった。
まず、麓の布陣を見ると。
穴田村方面には、佐々、進藤、村井、明智、佐久間の諸隊。
田中の塁には、柴田隊が拠って、氏家、稲葉、安藤の諸隊が凸字形に、日吉神社の参道まで突出している。
香取屋敷の方面は、丹羽、丸毛、不破などの兵で埋まり、唐崎の附城には、織田大隅守――そして叡山の裏――京都に向っている方の麓口には、足利義昭、その他、在京の兵が八瀬、小原をめぐって、ずっと取り巻いている形にあった。