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こよみ
暦
壺井 栄
「新潮」1940(昭和15)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页
醤油試験場と村はずれの灯台。どんなきっかけで八重が坂田と知り合ったのか、そしてどんな関係であるのか、いねはその日まで別に気にもとめてはいなかった。これまでにも、永年男の中で働いてきている八重に、いねはある警戒の目を向けたことはあったが、面と向うと八重の顔からは、恥さらしのことはせん、とでもいうような安心より読みとれなかった。小さい時からも病弱であったし、十七の時に病った脊椎カリエスが今はかたまっているとはいえ、八重はまだコルセットをはめている。自分は結婚はできないとあきらめ、はたの者もそう決めていた、その八重なのである。たださえ夜露にぬれることは毒だとつねづね気をつけていた八重が、遠い灯台まで行っていたにちがいない。雨の中のその一里の小道をぬれてきたことは悪いにちがいないのに、その毒をやらずにいられなかった八重。そして八重はとうとう何もいわずに試験場へ通っていたのであった。
今いねと肩を組んでいる八重は、紫っぽい大柄の着物を着、娘らしく桃色に頬を染めてはいるが八重は二十四になっている。
運動会の花火がぽんぽんと響く。それを後ろにゆっくりと歩いて、二人とも何にもいわずに家へ辿りついた。