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こよみ

暦

壺井 栄

「新潮」1940(昭和15)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,332 字 · 112 页

青空文庫

「ほんまにか」と、クニ子は立ち止って実枝の顔を見る。にこにこ笑っている。

「ほんまじゃのうて、姉やん落したいいよったせに」

「ふうん、おおけに。――その代り実枝の嫁入りにゃ、うちが箪笥おごらな」

実枝は暗の中で顔を赤らめ、それをごまかすかのように、

「姉やんが嫁にゆく時はほんなら実枝がおごら、今から毛糸編んでな」

するとクニ子は言下に、

「あほうよ、行くかい」と、向うを向いた。実枝はちらちらと動く蝋燭の火かげを受けたクニ子の背を見つめ、この善良なゆえにかたくなにさえ見えるクニ子の心の扉を、むりやりにでもこじあけて、二進も三進もならない思いをさせる男が世の中に一人くらい出てこないものかと考えた。そして、結局クニ子には自分ほどの厚かましさがないのだろうかとも思え、そうだとすればクニ子の場合は誰かが親身になって将来の相手を見つけだしてやり、クニ子の気持を説き伏せるのも一つの方法であろうと思い到った。

重吉が死んでから足かけ三年目である。法事を営もうという計画は、二人をそれぞれの気持ではずませていた。クニ子はクニ子で無経験な自分が実枝のことをどんな風に計ってよいものか、一種の気まり悪さからまじめに相談もできないでいることを、その経験のある姉たちにすがろうと思い、実枝はまた実枝で、その姉たちが来ればクニ子のことにも当然ふれる