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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

一座はしんとなった。

「船岡どのは、いまの金山を、どう思われるか」

甲斐は当惑したように「さて」と云った。

「新たに一ノ関へ加えられた領内に、金の鉱山がある、それから産する金は、本藩のものか、一ノ関のものか、船岡どのはどちらが至当と思われるか」

「失礼ですが」と甲斐は穏やかに云った、「この朝粥の会では、政治むきの話しはいっさい禁物、ということにしてあります」

「わしは聞きたいのだ」と外記は云った、「そのほかにも不審なことがある、一ノ関では藩の御用船を気仙沼にまわし、御蔵米と称して自分年貢の米を江戸へ回漕している、これはたしかな事実だが、これらについても、江戸の重職の意見が聞いておきたいと思う」

「私はまだ評定役にすぎませんので」

「いやそうではあるまい」と外記がするどく云った、「船岡は着座の家柄であり、一ノ関のあと押しで、近く国老に任ぜられるそうではないか」

「これは、これは」と甲斐は苦笑した、「どこからそんな噂が出たか知りませんが、私はいまうかがうのが初めて、それは意外でございますな」

「わしは意外とは思わぬ」と外記は云った、「わしだけではない、涌谷でも意外とは思っておられぬようだ、しかしいまそのことは措こう、わしの問いに答えてもらいたい」