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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

01 第一部

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 页

青空文庫

しょうばいはどうだと、甲斐が訊いた。まずまずというところです。幾らか好転したのか。もう少し待ってみないとわかりません。じつは唐船が相変らず停ったも同様なので、自分で船を二艘もってみました。株を買ったのか。いや、と信助は口をにごした。

甲斐は信助を見た。信助はその眼を避けるように、芸人たちに向かって「始めろ」と合図をした。鳴物が賑やかに始まり、若い男と女太夫の二人が立って、猿若を踊りだした。甲斐はおくみに酌をさせながら、なんの屈託もなさそうに、ゆっくりと飲んでいた。

成瀬久馬は甲斐のうしろに坐っていたが、ときどき眼の隅で右のほうを見た。そちらの襖ぎわに、二人の小間使が控えている。一人はおうら、一人はみやぢという。どちらも十七歳であるが、久馬の視線が動くたびに、おうらの表情にも敏感な変化があらわれた。二人の小間使は、膳の上の酒肴を、さげたり運んで来たりするため、そこでじっとしているわけではないが、坐っているときには、久馬とおうらとのあいだに、その眼つきや僅かな表情で、なにかを(互いに)通じあっているようであった。

半刻ばかりすると、甲斐は盃を置き、そこへ横になって「久馬、足をさすれ」