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しんだちどり
死んだ千鳥
吉川 英治
「婦人倶楽部 臨時増刊」大日本雄弁会講談社、1937(昭和12)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,539 字 · 32 页
おれだとて、何日まで朽ちて居ようか。しかも、今度のような絶好な機会を逃すのは、涙の出るほど残念だが……金となっては、どうしようもない浪人生活だ。もう、その事に就ては、云うな、云ってくれるな』
『けれど、今度お上洛りになる沖田様も伏原様も山口様も、皆、御浪人のうえに、日頃のお暮しとて、私たちよりもっと貧しいお方さえあるのに』
『伏原も小網町の魚問屋に身寄があり、山口も妻の里方がどうかなる家柄だからだ。おれ達夫婦には、この江戸表に一軒の縁者もありはしない。有るのは、旧藩の江戸詰の知辺だが、故郷元を追われたおれ達夫婦の事情を知っている奴等が、一両の合力もしてくれる筈はなし――又そんな所へ恥曝しをして迄、出世に促したくもない。――ええもう、云うなというのに、諄い奴だ』
賛五郎はごろりと横になって、世に入れない欝々とした顔を、手枕にのせて眼を閉じた。
『平田殿。――居らっしゃるか』
門口の声に、
『お、伏原様に庄司様、お揃いで――』
と、墨江はすぐ、出迎えて、
『あなた、いつぞや雪の日においで遊ばしたお仲間のお二方が』
良人にも告げて、敷物をそこへ並べると、賛五郎は懶げに起き直って、