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ししゃのしょ

死者の書

折口 信夫

「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页

青空文庫

当麻の村人の中には、稀に、此が山田寺である、と言うものもあった。そう言う人の伝えでは、万法蔵院は、山田寺の荒れて後、飛鳥の宮の仰せを受けてとも言い、又御自身の御発起からだとも言うが、一人の尊いみ子が、昔の地を占めにお出でなされて、大伽藍を建てさせられた。其際、山田寺の旧構を残すため、寺の四至の中、北の隅へ、当時立ち朽りになって居た堂を移し、規模を小くして造られたもの、と伝え言うのであった。そう言えば、山田寺は、役君小角が、山林仏教を創める最初の足代になった処だと言う伝えが、吉野や、葛城の山伏行人の間に行われていた。何しろ、万法蔵院の大伽藍が焼けて百年、荒野の道場となって居た、目と鼻との間に、こんな古い建て物が、残って居たと言うのも、不思議なことである。

夜は、もう更けて居た。谷川の激ちの音が、段々高まって来る。二上山の二つの峰の間から、流れくだる水なのだ。

廬の中は、暗かった。炉を焚くことの少い此辺では、地下百姓は、夜は真暗な中で、寝たり、坐ったりしているのだ。でもここには、本尊が祀ってあった。夜を守って、仏の前で起き明す為には、御灯を照した。

孔雀明王の姿が、あるかないかに、ちろめく光りである。