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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页
姫は寝ることを忘れたように、坐って居た。
万法蔵院の上座の僧綱たちの考えでは、まず奈良へ使いを出さねばならぬ。横佩家の人々の心を、思うたのである。次には、女人結界を犯して、境内深く這入った罪は、郎女自身に贖わさねばならなかった。落慶のあったばかりの浄域だけに、一時は、塔頭塔頭の人たちの、青くなったのも、道理である。此は、財物を施入する、と謂ったぐらいではすまされぬ。長期の物忌みを、寺近くに居て果させねばならぬと思った。其で、今日昼の程、奈良へ向って、早使いを出して、郎女の姿が、寺中に現れたゆくたてを、仔細に告げてやったのである。
其と共に姫の身は、此庵室に暫らく留め置かれることになった。たとい、都からの迎えが来ても、結界を越えた贖いを果す日数だけは、ここに居させよう、と言うのである。
牀は低いけれども、かいてあるにはあった。其替り、天井は無上に高くて、而も萱のそそけた屋根は、破風の脇から、むき出しに、空の星が見えた。風が唸って過ぎたと思うと、其高い隙から、どっと吹き込んで来た。ばらばら落ちかかるのは、煤がこぼれるのだろう。明王の前の灯が、一時かっと明るくなった。