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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
「日本評論 第十四巻第一号~三号」1939(昭和14)年1月~3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 62,340 字 · 126 页
郎女さま。
緘黙を破って、却てもの寂しい、乾声が響いた。
郎女は、御存じおざるまい。でも、聴いて見る気はおありかえ。お生れなさらぬ前の世からのことを。それを知った姥でおざるがや。
一旦、口がほぐれると、老女は止めどなく、喋り出した。姫は、この姥の顔に見知りのある気のした訣を、悟りはじめて居た。藤原南家にも、常々、此年よりとおなじような媼が、出入りして居た。郎女たちの居る女部屋までも、何時もずかずか這入って来て、憚りなく古物語りを語った、あの中臣志斐媼――。あれと、おなじ表情をして居る。其も、尤であった。志斐老女が、藤氏の語部の一人であるように、此も亦、この当麻の村の旧族、当麻真人の「氏の語部」、亡び残りの一人であったのである。
藤原のお家が、今は、四筋に分れて居りまする。じゃが、大織冠さまの代どころでは、ありは致しませぬ。淡海公の時も、まだ一流れのお家でおざりました。併し其頃やはり、藤原は、中臣と二つの筋に岐れました。中臣の氏人で、藤原の里に栄えられたのが、藤原と、家名の申され初めでおざりました。
藤原のお流れ。今ゆく先も、公家摂の家柄。中臣の筋や、おん神仕え。