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ししゃのけんり

死者の権利

浜尾 四郎

「週刊朝日 秋季特別号」1929(昭和4)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 30,854 字 · 61 页

青空文庫

しかし事件それ自体、今申す通り甚だロマンティックですから、新聞記事には全くもってこいというわけでありました。

事件は単純で、須山春一が、若い女に熱烈な恋をして、痴情の果、遂に之を殺したというだけの話です、尤も、「殺した」といっても、それは普通の言葉を用いたので、あれは後にも申す通りいわゆる殺人事件ではありません。私は傷害致死罪という名で起訴したのでした。

余り有名な事件でしたから、或いはあなたは既に御察しになっていらっしゃるかも知れませんが順序ですから一応の推移をお話して見ましょう。

一体、須山健吉という人は、全然一文無しの身の上から、腕一本で巨万の富を作って上流社会の人となったのですから、偉いには違いありませんが、どうも自分の息子の教育には失敗したようです。男女各一人ずつの子を儲け、女の方はまず無事に某子爵の家に嫁に行きました。男の子即ち春一は、中学を出るころまではまずまず無事だったのですが××大学に入学したころからいわゆるぐれ始めたらしいのです。これは余計な推測ですが、兎に角、ああいう家の一人息子だというので、無闇に甘やかし過ぎていたからではないでしょうか、××大学に入学したころから春一はカフェーの女と戯れることや、茶屋遊びを盛んにやるようになりました。