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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

久太夫にとくべつな才能があったのかもしれないが、祖父がひそかに金を与えているところを見たことがあるので、庭木の手入れをさせるのは、経済的に援助をする名目だったかもわからない。――安宅は十二三のころから、仕事をしている久太夫の側に、さえが来ているのをしばしば見かけた。痩せた小さな子で、色が黒く、怒った仔猫のように、いつも挑戦的なきつい眼つきをしていた。数年のちに親しく話すようになり、やがて恋を語るようになってからも、ふとするとその眼に、たたかいを挑むようなきつい色があらわれたものだ。彼はその眼が好きだったし、いまでも強く印象に残っている。

「ねえ先生」とだんごが云った、「聞いていらっしゃるの」

「先生はよせ」と益村が云った、「どうしてまた、おれのことを先生なんて呼ぶんだ」

あたし聞いたんですもの、とだんごは云った。いつか桶町の辻で、三人の若侍が益村といっしょにあるきながら、しきりに益村先生と呼んでいた、というのであった。彼は二十五歳から三年、尚志堂という、藩の剣術道場で代師範を勤めたことがある。代師範といっても序級の少年組であったが、そのころ教えた者たちの中に、いまでも「先生」