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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

六

「それはどうもありがとう」と云って安宅は会釈した、「――お宅のみなさんも御無事ですか」

「家族とは往き来を致しませんけれど、弟の順之助が小姓組に召された、ということを聞きました」とさえが云った、「子供も二人めが生れたそうでございます」

「ああ」と安宅は空を見あげながら、無感動な口ぶりで云った、「それはめでたいですね」

六

なにかほかに云うことはなかったのか、十幾年ぶりかに昔の恋人と会って、ああそれはめでたいですね、とは芸がなさすぎるではないか、と安宅は思った。

「あたし今夜は酔うわ」とおりうが云った、「いいでしょ、飲んでも」

「その男ははらを立てていたらしい」と安宅が酒を啜りながら云った、「今日は酔うぞと云ってむやみに飲んだ」

「なにを云いだすの」

「酔ってうっぷんをはらすつもりだったんだろう、村松庄兵衛という徒士組の者だったが、酒にはあまり強くなかったんだな、うっぷんをはらすまえに酔いすぎて、酔いつぶれてしまって、倒れるまえにひとことだけどなった、あんまり人をばかにするな、ってさ」

「いやな方」おりうはふきだしながら安宅をにらんだ、「あたしお酒には強いのよ」

「酌はしないよ」