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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

十三

安宅は笑った、「お互いにおくゆかしい話になってしまったな、――ついでにもう一つきくが、仮におれが身をひき、そこもととおりうと無事に結婚したとして、そのあとどうしてやってゆくか、思案はついているのか」

「なんにも」と芳村は答えた、「――しかしおりうといっしょになれば、なにかが始まるだろうとは思っています、ここまで落ちればどん詰りですからね」

安宅はなにか云いかけたが、思いとまり、空になった湯呑をみつめた。

「相談があるんだ」安宅はそう云ったが、そこでまた自分の言葉を否定するように首を振り、「いや、その必要はないだろう」と湯呑を膳の上に置いた、「――もしも用事がないのなら、このままここにいてもらいたいんだがね」

「べつにでかける用もありません」

「それはよかった」

「というと、ここへ戻って来るんですか」

ことによるとね。そう云って安宅は、刀を取って立ちあがった。

十三

外はまたさざめ雪が降りだしてい、ろじから横丁まではそれほどでもなかったが、表通りの道はまっ白になっていた。ふだんより酒を飲みすぎているせいか、寒さは感じなかった。そうかもしれない、と益村安宅は心の中で呟いた。