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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

五

「もうでかける時刻だ」と安宅が云った、「近いうちにゆくからこれで帰ってもらうよ」

五

おりうがたずねて来たことで、益村安宅の気持は少しはずんだ。けれどもそのあとで、はずんだ彼の気持に水をあびせられるようなことがおこった。祥西願寺は鶴尾山にあり、深い杉の森を隔てて藩侯の菩提所と接している。寺はその森に沿った石段の上にあり、本堂、講堂、食堂、客殿、宝蔵などのほかに、三重の塔もあって、近国でも名刹の内にかぞえられていた。本堂で法要が行われたあと、客殿で茶菓が出、益村、園部両家の者が暫く対談した。益村のほうは庄司五郎左衛門と妻、鵜殿久左衛門と妻。庄司は安宅の亡父の次弟で五十七歳、鵜殿は三弟で五十五歳だった。園部のほうは亡き妻の実父である内記と、その後妻。また亡妻の弟に当る長男の金三郎。ほかに米村、吉川の両夫妻という顔ぶれであった。

庄司の叔父は話し好きで、どんな席でも、また相手が誰であっても構わずに、自分の好きなことを勝手に饒舌る癖がある。亡くなった父から聞いたのだが、叔父は幼ないころに熱病をわずらって聴覚が鈍り、人の云うことがよく聞きとれなくなった。庄司家へ養子にいってから五郎左衛門と名のるようになったが、益村にいたときは源二郎といった。