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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

二

益村は訝しそうに反問した、「畠中はそこでおちつくつもりなのか」

「返辞によってはね」

「それはかたじけない」

益村はゆっくり釣竿をあげて、上のほうへ糸を投げた。畠中はまたなにか云いかけたが、思い返したようすで、水面をくだって来る浮子に眼をやり、その動きを仔細ありげに眼で追った。

「ときに、出立はいつだ」と益村がきいた。

「二三日うちだろう、十五日までには立つ筈だ」

「別宴でもやるか」

「まさか」と云って畠中はじっと益村の眼をみつめた、「――衣笠ではないだろうな」

「酒というものはうまいものじゃないな」と益村はまた竿をあげ、上のほうへ糸を投げてから云った、「五つのときじいさまに飲まされてこのかた、今日まで一度もうまいと思ったことがなかった、――畠中はたぶん」

「兼しげさ、云うまでもない、別宴をやってくれるなら南小町の兼しげだよ」

益村は憐れむように唇を曲げ、かすかに左右へ振った、「救いがたき男だ」

「衣笠はごめんだからな」と云って畠中は慌てて水面の浮子を指さし、「おい、くってる」と云いかけたが、すぐに気づいて、憤然と口をつぐんだ。

二

「きせちというものは正直なものですね」