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たきぐち
滝口
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页
と呼ぶ者が十人あまりいるのであった。
「あれはないしょだ」と益村は云った、「これからは先生なんていうんじゃないぞ、――酒を持っておいで」
だんごが空いた燗徳利を集めて立ちあがると、おりうが酒を持ってはいって来た。自分で結ったらしい、油けなしのじみな髷で、さっと水白粉を刷いただけの薄化粧が、こまかくなにかの花を染めだした紫色の単衣と、涼しげな、いい調和をみせていた。
「あらだんごちゃんだったの」おりうは男のような口ぶりで云った、「済まないけれどね、お肴の膳ができてるから持って来てちょうだい」
「はい」とだんごは答え、益村に振り返って云った、「あたしいま云われたこと決して忘れませんわ」
そして出ていった。
「なんのこと」おりうは坐って徳利を持ちながら問いかけた、「決して忘れません、だなんて、なにを仰しゃったんですか」
「きれいだな」益村はおりうの姿を、細めた眼で眺めながら云った、「――きれいだ」
「あの子にもそう仰しゃったのね」
彼は右手をさし出して「こっちへおいで」と云った。おりうは微笑してすり寄り、彼の胸へ肩を押しつけた。彼女の躯はまだほてっているように熱かった。