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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

四

おりうとさえと対比しながら、益村はふと自分のことを思った。ぜんぜん反対な二人の女性のなかにいた自分が、どちらに対しても「自分」でいたし、現在も「自分」でいる、ということに、おどろきよりも自分の中にある非人情なものを強く感じた。

「そしてお梶だ」と安宅は呟いた、「――さえともおりうとも似ていない、お梶は黙っていて、黙ったまま死んでしまった」

男の一生はもちろん仕事であろう、けれども男に仕事をさせるのは「妻」であり、妻によって伸びも縮みもする。

「おりうなら留守役としての勤めを、安心してはたせるような支えになってくれるだろう」と益村は自分に云った、「――家中の評がどうあろうと、芳村という男がどうじたばたしようと、おれはおりうを放しはしないぞ」

だが彼の表情には、その呟きとはおよそ反対な、しかんだ色があらわれていた。

四

江戸へいった畠中辰樹から、八月のうちに手紙が二通きた。初めの一通は江戸をこきおろしたもので、冷静な畠中にも似ず、肩肱を張った文字で埋まっていた。――天秤棒で盤台を担いだ魚屋の二人伴れが、町を突っ走っていくという。横丁から呼びとめる女房などがあっても見向きもしない。