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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

八

と両手を合わせて云った、「今夜はあの人の顔を見たくないんです、すみませんけれど誰かに代ってもらって下さいな」

「あつらだって大事なお客よ」とおわきは安宅に酌をしながら冷たい口ぶりで云った、「それにあの方が、あんたのほかには誰もよせつけないっちことも知っちるでしょう」

おかしな訛りだ、この女はどこで生れたんだろう、と安宅は思った。おりうはなおもおがみ倒そうとしたが、おわきは冷淡にはねつけた。おりうは益村の顔を哀願するようにみつめ、益村安宅は盃を伏せて、帰ると云った。

「あら、どうなしったんです」とおわきは眼をみはった、「あちしのお酌じゃあお気に召さないんですか」

「云いがかりをつけるな」立ちあがりながら安宅は苦笑した、「帰りたいから帰るだけだ、どうしても酌がしたければ屋敷まで来てくれ」それからおりうに向かって云った、「亡くなった母が云ったことだけれど、女はどんな大身の生れでも、自分の着物は自分で縫うもんだそうだよ」

八

それから五日めに庄司家へ招かれた。

叔父の長男である祐四郎に二男が生れ、その七夜の祝いが催されたのである。五郎左衛門夫妻は子福者で、男が四人、娘が三人いた。