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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

この人は酒が強いくせに、盃一つを四半刻もかけて飲むというふうであり、自分の屋敷のどこそこの柱が西方へ一寸がた傾いているという、およそ他人には興味も関係もないことについて、めんめんと半刻も話し続ける癖があった。そのときも昨日なにがし家に呼ばれて碁を打ち、一日じゅう打ちくらしてしまったということで、朝起きたときから始め、途中の路上で犬と犬が大喧嘩をしていた、というように話し続けていた。この順でいくとなにがし家へ着くまでにどのくらいかかるかわからないし、着いてから碁盤に向かい、さらに布石のもようまで説明されたらと考えると、とうてい自分の忍耐力ではかなわないと思い、ちょっとなつをみまって来ると、立ちあがってその座敷から逃げだした。

廊下で八歳になる長女のこそのをみつけ、産室への案内を頼んだ。なつは屏風で囲まれた夜具の中に寝て、赤子に乳をやっているところだった。彼女はもとから少し肥えているほうだったが、子を生んだいまでも痩せたようすはなく、色の白い、やわらかそうな肌は、つやつやと張りきっているし、赤子に含ませている乳房の重たげな、たっぷりとしたふくらみは、眩しいくらい美しくなまめいてみえた。