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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

「ごめんなさい、こんな恰好のままで」

「私こそ失礼しました、またあとでまいります」

「いいのよ」なつは微笑した、「もう五人の母になったんですもの、いまさら恥ずかしがってもしようがないわ」

安宅は坐って、なつの胸を見ないようにしながら祝いを述べた。彼女はあっさりした口ぶりで、おとうさまが子福者だから、自分たちもその筋をひいているのだろうが、このとしで五人もの子持になるのは気が重い、もうこの辺でおしまいにしたいと思う、などと云った。やがて眠った赤子を、並べて敷いた小さな夜具に寝かせると、彼女は寝衣の衿を合わせながら起きあがり、衣桁から羽折を取ってはおり、夜具の上に戻ってきちんと坐った。

「ねえ安宅さん」なつは声の調子を変えて云った、「いちど伺って聞きたいと思っていたんだけれど、杉原さんとの縁談をどうなさるおつもりなの」

「この秋の初めのことですがね、大滝の上流で釣りをしていたんです」と安宅が云った、「どうしたわけだか餌をすっかり取られちまいまして、餌なしの鉤だけで釣っていました」

なつは「また始まった」といいたげな眼つきをしたが、黙っておとなしく聞いていた。