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たきぐち

滝口

山本 周五郎

「小説新潮」新潮社、1963(昭和38)年11月〜1964(昭和39)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,815 字 · 99 页

青空文庫

と芳村は続けていた、「――するとおりうは、あたしはものではない、人間だと云い返しました、あたしは誰のものでもないし誰のものにもならない」

芳村はそこで口をつぐみ、次に云うことをどう表現したらいいかと迷うように、壁の一点をみつめたまま暫く黙っていた。その話はしなくともいいよ、と安宅は心の中で呼びかけた。酔っていたそこもとはおりうにとびかかって、彼女の着ている物を剥ぎ、裸にしてしまったのだ。しかも結局なにもできずに酔いつぶれたのだ。

「おりうはそう云いながら、自分も乱暴に酒を呷っていました」芳村は低い声で話を続けた、「そのうちに私はつぶれてしまい、そのままうとうとしていたんでしょう、なにか異様なけはいを感じて眼をさますと、おりうが脇差を抜いて私をにらんでいるんです、――いまでも覚えているが、おりうの血ばしってつりあがった眼や、灰色に硬ばった顔や、抜き身の刃の光など、まるで悪夢でもみているようなすさまじい感じで、ああ殺されるなと思いながら、私はその刃が自分の胸に突き刺さってくるのを、息もできずに待っていました、けれども、――私が眼をさましたと知ると、おりうはその脇差を私のほうへ差出して、二人いっしょに死のう、と云ったのです、あたしを殺してあなたも死んでくれと、ふるえながら繰返し云うんです、ひどくしんけんな、思い詰め