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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「いえ、決して姉小路様には……」
「それでは変じゃアありませんか」
「…………」
「『明後日妾は京へ帰ります。ですから人形は妾が持参し、京都へお送り致しましょう』『さようか、それではお願いしましょう』と、姉小路様からご依頼されて、お預かりいたした人形ですのに、それをあなた様が返せとあっては……それも独断で仰せられる。姉小路様に関係なく。……ホッホッホッ、変ですわねえ」
「いやそれは……その儀なれば……」
こうは云ったが民弥の心は、ここですっかり狼狽してしまった。
(しまった!)
と思わざるを得なかった。
いかにも梶子の云うとおりであった。
人形を京都へ送るべく、梶子へ預けたのは姉小路様で、決して自分ではなかったのである。
それを独断で姉小路様にも計らず、自分へ返してくれと云う。――これはなるほど理不尽らしい。
が、そう云ってしまったのであり、それを梶子に突っ込まれたのである。
(しまった!)
と思わざるを得なかった。
いかに自分があわてていて、人形取り返しに夢中になっていて、前後を忘れていたとはいえ、このかけあいの失敗は、許されがたく思われた。
(何んとか――そうだ、何んとか云って、云いまぎらわさなければ大変だ!)