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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
――ただそのための策略なのであった。
自分の身なりがあんまり悪い。で玄関から民弥に対し、表立って面会申し込んでは、宿の者に異様に思われようもしれない。
で、そういう策をとったのであった。
その猫の蚤をとってしまうと、フラリと兵庫は往来へ出、家蔭にかくれて待っていた。
と、はたして民弥の姿が、宿の門口からあらわれた。
ここじゃというように兵庫は手を上げ、知らぬ顔をして先へ進んだ。
すぐに民弥が追いついた。「女中どもが猫の蚤とりじゃと、面白そうに話すのを聞き、さてはご貴殿所用あって、拙者を呼ぶものと存じましてな」
こう民弥は囁くように云った。
「カンがよろしい、そのとおりでござる」
と、兵庫も小声で囁くように云った。
「で、お変わりはござらぬかな? ……宥免状は依然として、人形の胸の中にあるのでござるか?」
「は、さようにございます」
「梶子という女にも変わりはござらぬか?」
「は、変わりござりませぬ」
「物騒の女らしい、油断なさるな」
「決して油断いたしませぬ」
「人形の胸より宥免状を、どうともして貴殿の手に入れねば、何んとはなしに不安でのう」
「は、御意にございます」