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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

馬や牛や犬までが、前庭の隅に引き出されていた。

それよりの啼き声も賑やかであった。

昨夜浜松で騒動を起こし、同志の五十嵐右内を奪い、紀州藩士や井上家の家士と、戦い戦い戦いながら、民弥や菊女や萩丸をも加え、それでも一方の血路をひらき、明暦義党の面々は、一人の落伍者死者も出さず、この郷へ引きあげて来たのであった。

と、郷長佐原嘉門は、あらかじめ鵜の丸兵庫から、こうあることを聞かされていたので、少しも恐れず躊躇せず、ほとんど土兵、郷士として、日頃から充分訓練してある、郷民を屋敷へ招集し、今回の事情をくわしく語り、あくまで明暦義党の同志を、保護することを言明し、いずれご領主井上河内守様より、義党同志の引き渡しや、萩丸様の引き渡しなどを、武力を用いて強要するであろうが、その際には一同死を賭して、反抗するようにと決心をうながした。

郷民たちは誰一人として、反対しようとはしなかった。

一夜のうちに戦備をととのえ、やがて今日となったのである。

ご領主の兵と戦っては、千に一つの勝ち目もなく、青塚の郷は亡ぼされ、郷民は鏖殺されるのであったが、ここに一つだけ味方にとって、非常に有利なことがあった。