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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

これには軍右衛門も胆をつぶしたらしく、また小平と眼を見合わせたが、

「で、どなた様の細作隠密で?」

「豆州様のさ、松平伊豆様の」

「ご老中の松平伊豆守様?」

と、軍右衛門は自分の耳を疑がうように、そう云ってキョトキョト眼を躍らせた。

小平は少し顔色を変えた。

(はてな? それでは?)

といったように、改めて梶子をつくづくと見た。

「松平伊豆様は二人とはないよ。ご老中の松平伊豆守様さ」

「そのお方の女隠密?」

まさか! というように軍右衛門は、くどくど訊ねて眼をキョトキョトさせた。

「くどいねえ、その通りさ」

「お見それ致して申し訳もない儀」

と不意に小平が一礼した。

「お噂は承わりおりました。……柳営のお方々とご縁故深く、その添え状を多数持たれ、諸地方へ参られてご滞在なされ、所のご領主や公卿方らと、お心安くお話しなさるる、梶子様と申される貴婦人あって、紀州にもしばらくご滞在あそばされ、我が君とも親しく遊ばされた趣き、お噂によって承わりましたが、よもや、よもや、その梶子様が、このような所においで遊ばすとは……それに致しましてもこれまでの無作法、いやはや何んとも申し訳ござなく、平にご用捨くだされますよう……」