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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

はいって来た蚤とり武士を見ると、乳母は驚いて叫ぶように云った。

「身分は武士、業は蚤とり、浮世はさまざま、アッハッハッ……おお、おおこれは可愛らしい猫で。年齢は一歳か。二、三ヵ月越すか。その辺の見当でありましょうな……蚤に食わせては可哀そうじゃ。どれどれ取って進ぜよう。……が、ちとばかり無心がある。……湯をつかわせていただきたいもので」

武士は上がり框へ腰をかけて云った。

「湯をつかわせとおっしゃいますと?」

「ナニさ、その猫に風呂をあびさせることじゃ」

「おやまあさようでございましたか」

乳母は奥へ引っ込んだが、間もなく行水を使ったらしい猫の、濡れた体を吊るしながら、三畳の間へ帰って来た。

その間に武士は腰に巻いて差した、白猫の皮の鞣したのを取り出し、畳の上へ延ばしたが、

「では拝借」

と猫を受け取り、皮でクルクルと引っ包み、その上を片手でそっと抑えた。

扱い方にコツがあると見えて、猫は啼きもせず足掻きもせず、皮の外れから顔を出し、金色の眼で武士を眺め、緋の編紐の巻いてある咽喉を、ゴロゴロ鳴らして静もっていた。

編笠ごしに家の奥を、それとなく武士は窺ったが、