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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

しかし兵庫は慌ただしく止めた。

「あいや菊女殿そうはなりませぬ! ……というのは萩丸様痴呆の程度が、いよいよ烈しくなりまして、文字さえ書けなくなりました。……改めて萩丸様に宥免状を書かせる。――という一事に関しては、我々も考えに及びまして、特に佐原嘉門殿には苦心し、書かせるべく苦心いたしましたが、萩丸様には文字を忘れてござる。……教えて書かせるよう致しましたるところ、書きましたる文字は幼児の文字にて、萩丸様の文字ではないというありさま! ……これでは宥免状を書かせましても、萩丸様自筆とは思われぬ次第。……で、どうあろうと三十郎所持の宥免状を手に入れて、頼宣卿にお送りいたさねば、捕えられたる我らの同志の、放免は全く覚束のうござる! ……さあこうなっては三十郎を、父の敵とお狙いなさるる、松浦氏のご決心一つじゃ! 捕えられたる同志を見殺しにして、父上の敵の三十郎を、この場において討って取られるか? 同志助命の唯一の得物の、宥免状を手に入れるため、助けられぬところを一時助け、三十郎めを見遁がすか? ……松浦氏貴殿の決心一つじゃ!」

兵庫は民弥を気の毒そうに見詰め、余儀なげにそう云った。