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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

ところがもう一つ和歌山お城下に、ちょっと異色ある出来事が起こった。

これも浪人の姿をした男が、

「蚤とりましょう、猫の蚤とり」

と叫んで、家々の門口に立ち、呼び込まれると猫の皮を使って、巧みに飼い猫の蚤をとり、鳥目をいただくという出来事であった。

「江戸にあると噂に聞いていた、猫の蚤とりというような、しがない商売がこのお城下などへ、はいって来たとは驚いたねえ」

とお城下の人たちは噂をした。

でもこの方は愛嬌があるので、かえって人々に歓迎されたが、辻斬りの方は憎悪の的となった。

さてある夜のことであったが、吉野屋という旅籠の部屋で、蚤とり武士の鵜の丸兵庫と、民弥とがヒソヒソ話していた。

「今日も音沙汰ないようで」

と、兵庫は不安と不快とで云った。

「姉小路様よりも梶子殿よりも」

「さよう」

民弥も不安そうに、

「いずれよりも音沙汰ござりませぬ」

「いったい、どうしたということでござろう?」

「さあ、どうしたことでござりましょう」

「お二人がご殿へ参られて以来、今日で七日になる筈でござるが」

「さようさよう七日になります」

「何んとも一回の音沙汰もない」

「一回の音沙汰もありません」