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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

「お引渡しするでござりましょう」

「ご牢内には斬罪にすべき罪人、ほかに二十人もありますので?」

ここでまた姉小路卿はジロリとばかりに、大炊頭の顔を見た。

大炊頭は微笑したが、

「ご存知の通りの大藩でござれば……」

「ごもっともさま、それでよろしい。……梶子殿!」

と姉小路卿は、梶子の方へ眼を向けた。

「これでよろしゅうござりましょうな?」

「…………」

わかったような解らないような、変な塩梅ではあったけれど、

「よろしいとあなた様が仰せられますなら、よろしいように存ぜられまする」

「よろしいともよろしいとも。……双方よろしい、若殿ばらもわれらも。……いや英雄というものの心事は並たいていのものではござらぬ」

××町に厳めしく、しかし寂しく立っているのは、この紀州藩の牢屋であった。

その不浄門は空地に向いてい、空地を越すと街道筋で、松並木が見えていた。

夜だのに事件でも起こったと見えて、不浄門の辺には御用提灯の火が二、三行ったり来たりしていた。

空地の一所に林があった。

生えている木はまばらであったが、でも領域は広かった。

そこに何んと二十挺の駕籠が、整然と並んでいるではないか。