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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

(自分の今の境遇を訴え、囚人宥免方の書面を送ったら、愚に返ったのではあるまいかと、そう疑がわれるほどこの自分を愛し、何んでも聞いてくださる祖父様には、どのような無理をなされても、その義党の同志とやらを、きっと放免なされるだろう。だからそんなこと訴えてはやれない)

こうも彼は思うのであった。

そうして彼としてはこうしているうちには、自分を見失った二人の家来が――皆川作右衛門と杉本伊織とが、屋敷へ帰って大騒ぎをし、家中の者たちを手分けをして、自分を探し市中を調べ、間もなく自分を発見して、連れ帰ってくれるに相違ない。――とそんなようにも考えられるのであった。

(菊女という娘、どうしているやら?)

菊女に対する彼の感情は、かなり変わったものであった。

彼をこのような境遇へ落とした、その元兇こそ彼女なのであるから、憎く思わなければならない筈だのに、彼にはそうは思われなかった。

(自分をこんな目にあわせたのも、党のためとやらに相違ない)

そう彼は解釈した。

彼には彼に笑いかけてくれた、美しい清らかな優しそうな、菊女の顔が今もハッキリ、眼底に焼きついているのであった。