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ねこののみとりぶし
猫の蚤とり武士
国枝 史郎
「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页
「そうか」
と云うと背後を見、
「いざ萩丸殿、おはいりくだされ」
「うむこれが虫部屋か」
萩丸は躊躇せずに家の中へはいった。
いま萩丸は虫部屋にいた。
二十畳敷きぐらいの部屋であって、四方は装飾のない板壁であり、床は畳なしの板張りであった。
金網張りの窓が一つ、高いところに付いていて、そこから月光が射し込んでいるばかりで、燈火さえついてはいなかった。
床の間もなければ違い棚などもなかった。
敷き物なども敷いてない。
それは人間の住む部屋というより、動物などの住む檻ともいうべき、殺風景きわまる部屋なのであった。
萩丸は坐りもせず佇んで、部屋の四方を見廻した。
(虫部屋だというが何が虫部屋だ)
こう思わざるを得なかった。
虫部屋などというのであるから、いろいろの虫を籠にでも入れて、飼って置くところの部屋なのであろうと、そう密かに思っていたのであったが、そんな虫籠などどこにもなかった。
(何んだ馬鹿な)
とこう思った。
立っていたところで仕方がないので、敷き物はなかったが板敷きの上へ、萩丸は無造作に坐り込んだ。
と、すぐに膝から股、腰から腹までムズ痒くなった。