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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

髪を洗い髪にして無造作に束ね、藍の棒縞の単衣の襟から、たっぷりとした胸元を覗かせ、膝を崩して横坐りをし、茶を長閑そうに飲んでいる様子は、大姐ごとでもいいたげであった。

小間使いに下働きに飯たき婆さんに、庭掃き爺さんに下男一人二人。七、八人の家内なのであった。

「お梅や」

と隣室で梶子の外出の、お召しや帯などを畳んでいた、十七、八の小間使いへ、不機嫌そうに声をかけた。

「三十郎さん、まだ帰らないのかねえ」

「さあ」

とお梅は首を傾げ、

「もう一度見に行って参りましょうか」

「そうだねえ、そうしておくれ」

お梅は立って出て行った。

梶子の附け人で用心棒で、かつは梶子の監視人でもある、刃三十郎は梶子の家から、約二町ほどへだっている、同じ町内に住んでいた。

今朝から呼びに行くのであるが、昨夜外泊して以来、いまだに帰宅しないとのことで、そこで梶子は少なからず、イライラして怒っているのであった。

しかしお梅とひき違いのように、三十郎ははいって来た。

「おや三十郎さん今お帰りか」

梶子はすかさず声をかけた。

「吉原でしたかえ、お楽しみだったねえ」

「…………」

笑いもせず厭な顔もせず、左半面額から頤まで、ペッタリ墨でも塗ったように、黒痣のある妖怪のような顔を、無表情にして三十郎は坐った。