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ねこののみとりぶし

猫の蚤とり武士

国枝 史郎

「夕刊大阪新聞」1934(昭和9)年8月7日~12月28日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 185,496 字 · 368 页

青空文庫

「いまだ手がかりござりませぬ」

――が、ややあってそう云った。

聞く人の心をヒヤリとさせるような、冷たい厳しい声であった。

「そう」

と梶子は軽く受けた。

こっちも「驚く」ということや「恐れる」ということを知らないかのような、ふてぶてしい心の持ち主だったので、そう軽く受けたのだった。

「それじゃア昨夜もそっちの方で。……わたしゃアお楽しみ筋かとねえ……今朝から二度ほど呼びに行ったんだが……まあまあそれはご苦労さまでした。……手がかりがない? まるっきりない?」

「今のところ、まずさよう」

「ふうん」

と梶子は裏庭の方へ、縁越しに眼をやって不満そうにいった。

過ぐる日梶子は浅草境内で、紀伊家の御曹司萩丸君が、若い美しい娘によって、誘惑されたのを親しく見た。

で、それ以来三十郎をして、萩丸のその後の消息と、誘惑をした娘の素姓とを、かり立てるようにして探らせた。

その結果今日までに知れたことといえば、萩丸はあれ以来行方不明、そこで紀伊家では大騒ぎをし、紀伊家としても極力探しているが、南北町奉行にも事情を告げ、同じく探して貰っていること、しかし行衛は今に知れず、そうして萩丸を誘惑した娘の、素姓も住居も解らない。