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ささめゆき
細雪
谷崎 潤一郎
02 中巻
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页
十六
、と、そう思いつつ八月じゅうはとうとう渋谷で暮してしまった。
十六
すると、その明くる日、九月一日の夜のことであった。
その晩は、六人の子供達と悦子とが一と立て済ましたあとで、義兄夫婦と幸子と雪子とが家で夕食をしたためながら、ちょうどその日が震災記念日に当っていたので、地震の話からこの間の山津浪の話を持ち出し、妙子の遭難のいきさつ、板倉と云う若い写真師の活躍等々を食卓の話題に上せたが、その折幸子は、あたしは好運にも恐い目に遭わなかったので、みんなこいさんに聞いたのだけれども、………と、そう前置きをして当時のことを委しく語った。と、その言葉が讖を成したのでもあるまいが、恰もその夜、大正何年以来と云う猛烈な颱風が関東一帯を襲って、幸子は自分に関する限り、生れて始めてと云ってよい恐怖の二三時間を経験したのであった。
風の害の少い関西に育った幸子は、そんな凄じい風もあるものだと云うことを知らなかったので、そのためになお驚きが大きかったのでもあろう。尤も、四五年前、昭和九年の秋であったか、大阪の天王寺の塔が倒れ、京都の東山が裸にされた時の烈風は彼女も知っており、二三十分ほど恐いと思った覚えもあるけれども、でもあの時は、蘆屋辺は大したことはなかったので、天王寺の塔が倒れたことを新聞で読んで、それほどひどい風だったのかと意外