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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

二十五

もし奥畑に、彼女が無事に助かったことを喜ぶ真情があるならば、もう一度蘆屋へ引っ返して、彼女の顔を見て帰ろう、と云う気になるのが当然である。彼は自分でも、又後で寄せて戴きますと云って出て行ったのだそうであるし、幸子も無論彼が帰りに立ち寄るものと予想して、心待ちにしていたと云うのに、無事と云うことを確かめさえすれば、義理は済んだつもりなのであろうか。それにしても、人間の真価はああ云う際にほんとうによく分るものである。妙子は奥畑が浪費家であるとか、浮気者であるとか、甲斐性なしであるとか、云う程度のことだけなら、何も縁であるから辛抱しようと云う考がないでもなかったが、未来の妻のためにズボンを汚すことさえも厭う軽薄さを見ては、すっかり望みを失ったのであった。

二十五

ここ迄は妙子は、始終両頬に涙の条を引きながら、時々洟をんだりしたけれども、割合に落ち着いて、理路整然と、事細かに話した。が、このあとの板倉とのいきさつに就いては、だんだん口が重くなって、なるべく幸子に言葉数を多く費させ、自分はそれを肯定したり否定したりすれば済むように努めたので、幸子はところどころ想像で穴を填めながら聞いて行かなければならなかった。