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ささめゆき

細雪

谷崎 潤一郎

02 中巻

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,628 字 · 371 页

青空文庫

三十五

。なぜと云って、その病室の外の廊下は普通の住宅のそれのような三尺幅のものであり、階段も亦狭い上に踊り場がなくて螺旋状に曲っているので、担架で階下へおろす際に、小便をするのにさえあんな喚き方をする病人に非常な苦痛を与えるであろうことは明かだからであった。親兄弟たちは、病人を気の毒がるよりもその時の鋭い叫び声を聞かされるのが遣り切れないのでヒヤヒヤしたが、何とかして戴けないものでしょうかと、幸子が見かねて看護婦に云うと、いや、その御心配には及びません、注射をして運び出しますから、―――と、そう云う鈴木医師の答だったので、皆ほっとした。事実病人は注射されてから稍安静になり、医師と、看護婦と、母親に附き添われて運ばれて行った。

三十五

父親と、嫂と、妹とが、病室の跡片附けをしたり支払いを済ましたりしている暇に、幸子は妙子を蔭へ呼んで、あたしはこれで帰ろうと思うがこいさんも一往帰ってはどうか、貞之助兄さんも、なるべく私が帰る時にこいさんを連れて帰るように云っているのだが、―――と、誘いをかけて見たのであったが、兎に角手術の結果を見届ける迄は、と云うことなので、幸子は仕方なく、四人を自動車に乗せて鈴木病院へ送り届け、自分はその車で蘆屋へ帰ることにした。